現世の譚
人は死ぬと、その霊魂は北へ向かうと聞いたことがある。 死後の魂を司る北辰大帝という冥界の神様が北極星の化身として北の天にいるからだ。対して南の天に一際煌く南極星は古来、道教に寿星とも云われ、その化身は福禄寿である。頭の長いちっちゃいおじいちゃんで博奕と呼ばれた双六遊びの大好きな七福神で御馴染みの福の神。人々の命を守り、長寿幸福を願って存在している神様だ。 画賛にはこの福禄寿があなたの魂の行く末を先回りして、北の至る所で南山を唱えて下さっている…とある。南山とは千年、萬年と天地に動ずること無く泰然磐石と聳え立つ山で長寿永福を象徴する要諦だ。なんとも楽しげに微笑みかけるこの神様を視ていると我々へのそんな慈しみの思いと長寿を唱える声が聞こえて来るようだ。現世に人が家族を愛し、人の為に生きて幸福を無償で願い、財を築くことの尊さ…そんな人々の純粋な想いを大切に吸収して、観る側に幸運を返してくれるものがこの画の題目であり、それが道釈画だと言える。